書評はどう書くべきか? コツは「匂わせること」

テクニック(右腕)

今回は、「書評」に関するお話です。

ライターとしての仕事のなかには、書評と呼ばれるものがあります。何らかの書籍について、その本の特徴やメリットについて紹介したり評価したりするものです。ライティングにおいて、「特定のものを紹介・評価する」というのは、特別なことではありません。むしろ、それこそがライターとしての本分とさえ言えます。

書評で書いてはいけないこと

ただ、書評の仕事はほかのライティング業務とはかなり違うという点を意識する必要があるでしょう。なぜなら、紹介・評価する本について「伝え過ぎてはいけない」という制限があるからです。

ライターとして、家電を紹介する記事を書く仕事を受けたとすれば、重視するべきなのは「いかに素晴らしさを伝えるか」になります。可能であれば、その家電の機能を余すことなく紹介するべきでしょう。

実際には文字数やページ数といった制限があるため、特に魅力的な点だけを選ばなければなりませんが、「もっとも魅力が伝わる部分」を選択するのは間違いありません。しかし、書評ではそうした書き方は厳禁です。

なぜなら、書評で評価するのは「文章」だからです。

文章を評価するうえで、「もっともおもしろい部分」を紹介してしまったら、それはいわゆる「ネタバレ」になってしまいます。たとえば推理小説の書評において、「もっとも面白いのは犯人が○○だったという点です」などと書かかれている場面を想像してみましょう。

おそらく、書評の対象になっていた本を手に取ろうという気持ちは失われてしまうはずです。つまり、書評では「一番おもしろい部分を書いてはいけない」のです。

こうなると、途端に難しくなります。「一番おもしろい部分」を避けつつ、「おもしろさ」を伝える文章を書かなければならないからです。

まずは本の目的を考える

書評において、もっとも意識すべき点は「この本はどのような価値を持っているのか」という部分です。もう少しわかりやすく言うなら、「この本は読者に何を与えるために書かれたのか」を考えることを重視しなければなりません。

具体例として「起業」に関する書籍があったとします。起業関連の書籍とは言っても、内容はさまざまです。「起業するための準備に関する本」「起業してから必要な知識に関する本」「起業にまつわるトラブルの事例に関する本」など、起業関連の書籍といってもそれぞれ中身はまったく異なります。

「起業準備に関する本」なら、これから起業する人が準備しておくべきことについて書かれているはずです。しかし、それらの事柄を紹介する書評はいけません。いくつか具体的な内容を盛り込むのはよいですが、「準備すべきこと」を羅列するような書評は避けるべきです。それでは、「書評対象の書籍」への興味を引き出すことができないからです。ここで大切になるのが、「起業準備に関する本」の目的です。

「起業準備に関する本」の目的は、「これから起業する人には必要となる準備がたくさんある」ということを伝えることにあります。書評では、この目的にあたる部分を上手に利用して、「この本を読めば企業に関する準備について知ることができる」「起業のための準備を知ることで失敗しないで済む」といった点を強調するのです。

そのために必要があれば、実際に書かれている内容に触れるのは問題ありません。10個の事例があるなら、そのうちの2~3つほど取り上げて、「こんなに大切な準備がほかにもたくさんある」と伝えるわけです。こうすることで、起業しようと考えている人が書評対象の書籍を読もうとする意欲を引き出せます。

これは小説などでも変わりません。ミステリー小説において、犯人が明かされてしまう書評は困ります。ミステリー小説のおもしろさは、「犯人の正体という謎が解き明かされるまでの緊迫感」だからです。そうであるなら、「どんな謎や秘密があるのか」「どうしてその謎や秘密が重大なのか」「それに関わる人々の素性や思惑とは」といった、作品のなかで追及される「謎」についてなら紹介できます。

「謎解き」が主題になる小説においては、謎が深いほどおもしろさが増すからです。どれだけ深い謎が隠されているのかを伝えることができれば、ミステリー小説の書評の役割を果たすことができるでしょう。

大事なのは「匂わせること」

書評では、おもしろさの核心部分を語ってはいけません。もし核心まで書いてしまうと、書評した書籍の価値が損なわれてしまうからです。

書評は「試食品」とよく似ています。お店の前を通る人に、商品の匂いを感じてもらい興味を引きつけます。そのうえで、少しだけお試しで味を確かめてもらうのはよいでしょう。しかし、お客の腹が膨れるほどに食べさせてはいけません。「もっと食べたい」「もっと味わいたい」と思ったところで、「こちらをお買い上げください」と商品を進めるのです。

書評でも同じです。まず書籍についての概要を語ります。あるいは、その書籍の想定読者が抱える悩みについて訴えかけるのもよいでしょう。「○○にお困りではありませんか?」「○○な体験をしてみたいと思いませんか?」といった問いかけから始めるのも有効です。そのうえで、書籍の内容について少しだけ紹介します。

「こんな方法があります」「こういう事実があります」「実はこんな謎が隠されています」といった形で、「試食」してもらうのです。そして最後に、「ほかにもいろいろありますが、知りたければぜひこの書籍を読んでみましょう」「こういう内容を学ぶのはとても大切なので、ぜひこの本を読んでみてください」とオススメします。

書評のコツはとにかく「匂わせる」ことです。実際に読んだときのおもしろさや驚きを想像してもらえるようにしつつ、本当に大切な部分は書きません。核心部分を書くことなく、核心部分に対して興味を持ってもらうための手段こそ、「匂わせる」ことなのです。そこを意識するだけでも、書評が書きやすくなるでしょう。

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